01-01;かぜ一般
- ここでは小児科診療でよく診せていただくかぜ一般(胃腸かぜも)について。
- 外界との接点では当然起こりうる免疫と外来物との戦いです。
のどかぜ
- のどで起こる免疫反応です。咽頭後壁やその周辺のリンパ組織(扁桃腺含む)が主戦場です。
- のどの痛み、発熱が最初の主症状です。軽症であれば3日程度(炎症3日)で良くなります。
- 上方向に広がれば鼻症状、下方向に広がれば咳症状になります。
- 鼻症状は鼻炎として、鼻づまり、鼻水の症状ですが、奥に入れば手ごわく副鼻腔炎(蓄膿)や中耳炎(鼻をすすったり、咳の勢いで耳とつながっている管(耳管)を通して)になり得ます。
- 咳症状は、奥に炎症が入ればよりひどくなります。夜間特に寝付きの咳、横になると増える咳は気管支炎を意味します。気管支は夜細くなる傾向があり(自律神経の副交感神経優位になる時間)、咳反射が出やすくなります。朝起きてからの咳は鼻炎が原因で、鼻汁がノドを流れて咳になるパターンが考えられます。
- 鼻症状、咳症状ともに風邪のこじれた状態、すなわち奥へ進んだ状態といえます。一般の風邪では段階を踏んで数日して症状が進みますが、インフルエンザは特別で風邪の初日または熱の出る少し前から咳がでていることが多く、外来診察で熱と咳同時初発の症状でおいでになり、周りの流行や全身症状があれば強く疑うきっかけとなります。
- のどの赤さの程度からおよそ感染後の日数は予想することができます。
- 発熱症状のみで自覚症状のないノドかぜはありますが、かえってノドの所見のない場合、別の発熱の可能性(胃腸かぜ、腎炎、心膜炎など)が出てきます。ノドが赤いから悪いのではなく、原因がわかることで安心と対応をすることができるといえます。
- まずノドの乾燥を防ぐように注意が必要です。部屋の湿度を保つこと。一度にたくさん水分をとるのでなくこまめに水分をとるようにして下さい。
- うがいについては、その時の保湿にはつながるでしょうが、うがいだけでかぜがすぐ治ることはありません。手洗いと並んで予防の基本であります。
- うがい薬は消毒薬であり、かえって傷んだノドには逆効果です。指示の濃さよりも薄くして使うことを勧めます(薬でなくただの水で十分です)。手足で怪我をした場合に度々消毒を繰り返していると治る傷も治りません。消毒薬は正常の組織も障害し治癒力を弱めてしまいます。
- 発熱は普通2,3日で軽快するのが普通で、その後咳や鼻が残る場合もあります。程度によって再診していただき服薬内容を変更することが必要です。
- 強い原因(アデノウイルスや一部の手足口病)などで4日間高熱となることがありますが、稀であり注意と検討が必要です。
- 咳症状がだんだん強くなって発熱が治まらずまたは強くなる場合には肺炎を疑います(マイコプラズマの場合もあります。最近のマイコプラズマはマクロライドに耐性で小児ではオゼックス、成人ではジェニナックなどが有効なケースも多く、早めに検討します)。
- 鼻炎では部屋を暖かくすることが鼻づまり、鼻水に有効です。
- 子供の場合、発熱や病気の症状よりも、食欲、顔色、夜間寝れるか、日中遊べる様子があるか、泣き声が続けることができるか(肺炎では続きません)が参考になります。
- 発熱(38度以上をピークとする)が5日間続く場合には免疫異常(血液疾患などによる)、川崎病などを疑って身体所見をもう一度とる、必要があれば病院で採血やレントゲンをとるなどの対応が要ります。
- 発疹が発熱がある間に現れた場合は、突発性発疹ではなくまたウイルス性胃腸炎の発熱後発疹でもありません。免疫反応が強いものとして川崎病も鑑別(BCG痕の発赤は?)に注意が必要です。
- 多くの診療所、病院では抗生物質の投与はウイルスがその多くの原因であり、不要であるとされています。ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンの登場によりますます抗生物質の服薬は不要かも知れませんが、突然の高熱が細菌性でないと断定できない、また以後の混合感染を防ぐためには一定の意味があるように思います。したがってあまり抗菌力の優れた新薬を避けてリスクの少ないレベルで、予防効果(中耳炎、肺炎、髄膜炎他への進展予防)があると考えられる場合に抗生物質を処方します。
- 明らかなノド風邪であれば、夜の熱(普通は夜間の熱の方がでやすい)の出ない日、すなわち発熱のあった翌日まで抗生物質は服薬ください。
- ノドかぜとは言えない場合、幼少時の突発性発疹も含め、発熱が解熱剤を使わず37.5度を下回れば抗生物質は中止されてよいです。
- 子供の服薬は、ドライシロップは甘い薬で吐きやすいので、大人のように食後とせずに、時間毎で服薬するようにしてください。
- 本院では体重あたり高用量ではなく投薬しており少し短い時間で服薬してかまいません。すなわち1日3回の薬であれば6時間毎、1日2回の薬であれば8時間毎というように。
- 発熱時のはじめに使う薬はセフェム(セフゾン、フロモックス、メイアクト)が多いです。
- 発熱がおさまってきて、微熱の場合、咳に痰がからむ場合、鼻水が粘調で色がつく場合のいずれかであればマクロライドを勧めます。マクロライドの服薬は上のすべてが治まるまで継続やむを得ないですが、途中経過は必要があれば診せていただいた方がよいです。
- 続いている場合、中耳炎の心配(普通は高熱になって耳が痛いのでかなりぐずります)、高熱が再び咳と一緒に出てきた場合には肺炎の心配もいたします。
- 解熱剤については、38.5℃以上が目安ですが、夜は鎮痛効果も期待して38℃前後でもよく眠れるように早めに投与するのはありとお勧めします。
- 解熱剤の効果は1.5℃程度下がるだけで、平熱にまで下がるわけではありません。かえって平熱まで下がってしまうのは汗をかいてさがるわけですから、繰り返す発熱と解熱は脱水にもつながります。少し下がった段階で夜は眠れるまた昼は栄養補給や水分補充ができるのであれば、それでよいととらえてください。
- 解熱剤が使える条件は、水分をとれ、また尿も出る(水分が循環できる)条件が必要です。したがって後で述べる胃腸かぜでは解熱はあまり勧められません(水痘やインフルエンザも)。
- 解熱剤を使わずに少し熱を下げるのは、脇の下や足のつけねを冷やすことが勧められます。額を冷やすのは気持ちよいですが熱を下げる効果はありません。首の後ろを冷やすのも悪くはないと思います。
- かぜに抗生物質;確かにウイルスそのものに抗生物質は効きません。一方でウイルスに感染しノドかぜから上下に拡がり、鼻など上気道、気管や気管支支などの下気道の粘膜も損傷します。すると粘膜の細胞が剥がれ、局所の免疫が低下します。その部分に細菌が付着すると(もともと外界と接するところで細菌は多いはずです)増殖し、炎症を起こします。ウイルス風邪にも抗生物質がこじれ止として働くことになります。
胃腸かぜ
- のどかぜは、外界と接触するノド、鼻、気管支が主な戦場でしたが、胃腸かぜでは外来物(痰や鼻水などの菌も含む)と胃や腸に入ってからの免疫反応が問題となります。胃や腸は単に消化の作用を持つだけではなく、皮膚などと同じで外来物と接触する一方一部は吸収するため、リンパ組織による防御機構が発達しています。
- 胃の場合には、周辺のリンパ組織による防御だけでなく、胃酸による防御、胃の通過を遅らせる(腹部膨満につながります)または嘔吐反射による防御があります。
- 腸の場合には、周辺のリンパ組織(特に盲腸周辺は発達)による防御だけでなく、通過促進(下痢)によって体内にいる時間を少なくするようにしています。
- 症状は嘔吐、腹部膨満から始まることが多く、その後下痢、発熱(38℃前後)となりますが、すべてが揃うとは限りません。下痢の回数は1日3〜4回までであることが多いように思います。
- 下痢が1日5回以上で、発熱が38℃程度の場合には食中毒による場合を疑います。感染性(菌が少量から増えて発症する)の場合食直後でなく潜伏期(1〜2日)をおいて発症します。
- まだ吐き気が残る場合には顔色は悪い場合が多いです。
- ノドかぜ以上に倦怠感が強く、頭痛なども伴いやすいです。
- 腸炎で腸の粘膜防御が落ちることで日頃は吸収しないものも吸収して病原微生物以外の外来物との反応も起きやすくなり、蕁麻疹や皮湿疹などが現れやすくなります。したがって胃腸かぜの時に元気をつけようと刺激物を食べると、胃腸かぜは治ったのに蕁麻疹が続くということもあり得ます。
- 吐いた場合には、必ず20〜30分は水分も取ってはいけません。3歳以上であればうがいはできるのでかまいませんが、ノドが乾くからといって水分を与えると必ず吐きます。取った水分だけを吐くのであればプラスマイナス0ですが、胃液や内容物も吐くので電解質を失いより弱ってしまうことになり得ます。
- まずコップひとくち、スプーン一杯からはじめて少しずつ量と濃さを上げていきます。スポーツ飲料は糖質が多くまた冷蔵庫から出てきた冷たさはかえって胃にこたえます。お湯割りにするなど薄めてかつ常温に近くして使うことが勧められます。
- 子供たちは、周りの者が食しているのを見れば、自分も食べてみようとして当然です。でも飲めないのに食べれるはずはありません。必ずステップアップして、お白湯お茶、次に薄めたイオン水、次に普通のイオン水、それらが余裕で飲めるようになってから固形物の順にしなくてはいけません。
- 上記のようなことに注意しても複数回吐いてしまう場合は、迷わず肛門から薬のアプローチが必要です。何も薬がなければ浣腸から。浣腸は1歳で10mL、6歳で20mL、大人は30mLが市販品で手に入ります。
- ナウゼリン座薬は10mgは1歳で、30mgは3歳から使います。むかつき止の効果に20から30分は必要ですが、サイズが大きく先に刺激で排便で出てしまった場合には入れなおす必要はありません。うまくいけば制吐作用に加え、便がでることでますますむかつきが治まり、悪い物が出てお腹も軽くなり一石二鳥の効果が期待できます。座薬を使ってもむかつきが治まらなければ浣腸による排便が有効なことが多いです。
- 下痢がはじまってすぐに正露丸などで止めに行っては絶対いけません。腹痛があってもなでるか体温程度で温めるなど物理的に凌ぐまでにして下さい。下痢で悪い物が出ることによって諸症状が和らいでいきます。
- 下痢がひどい場合、または嘔吐頻回では電解質を失います。薬局で売られているOS1やアクアライトなどの電解質補液剤は、スポーツドリンクに比べ糖分が少なく、悪い状態の腸への負担が少ない。一方で電解質の量が多く補充に勧めらます。
- 下痢の時の食べ物は、脂濃いものや糖質の特に多いものは腸に負担になり避けねばなりません。薄く吸収しやすい炭水化物、すなわち柔らかいご飯またはお粥、柔らかいうどん、薄く焼いた食パンなどが勧められます。果物ではリンゴは便を固める作用があり勧められる。特に最初の食する時は繊維を粉々にするのに、すりおろしにするのは良いことです。
- 嘔吐、下痢が止まらず、元気がない、尿の出が悪い等になると脱水に点滴が必要になります。
- 胃腸かぜの発熱は38℃前後が多く、解熱剤を基本的には使わず、冷却(頭を冷やすのは気持ちよいとして解熱には太い血管のある脇の下などを冷やします)だけで様子を見る方がお勧めです。夜に寝苦しいようであれば夜間だけ水分の摂取ができることを条件に解熱剤を使うのはよいと思います。
- 腸のかぜから髄膜炎に移行するパターンがあります(ウイルスではエンテロすなわち腸系のウイルスで髄膜炎を起こすことは珍しくありません)。また胃腸かぜでは虫垂周辺の炎症(圧痛があります)があることも少なくありません。したがって胃腸かぜはこじれを防ぐのに安静休養は大切と思われます。
- 抗生物質では下痢が中心の時は腸の負担になりにくい(ペニシリンやセフェムを避けて)ホスミシンやキノロン系の処方を勧めますが最初の1〜3日、熱のある勢いのある時だけに服用でよいと思います。子供でまだ便が出ていない時はセフェムでかえって排便しやすくする手もあると思います(下痢が中心になれば整腸剤に切り替えます)。
- 胃腸かぜでは頭痛はめずらしくありません。水分がとれていればアセトアミノフェン服用で対応していただきます。
- むかつきは年長児であればプリンぺラン内服対応(1日2回まで、大人は3回まで)を頓用にお渡ししています。
扁桃腺炎
- 扁桃腺は気道、口周囲の大切な防御機構ですが、強い炎症(ウイルスや菌と戦う)を起こすと高熱になり得ます。その際は所見としては通常より赤味が増し、腫れが強くなります。
- それを超えて膿が貯まるほどになると、滲出物を表面に認めるようになり(白苔)、炎症が厳しい状態であることを示します(治癒してくる時は白苔の深さがなく、真っ白で薄い感じになります)。
- そのような状態では10人のうち8人は抗生剤の内服と強い消炎剤(ステロイド)の併用で治りますが(ステロイドの使用は来院時が2日目あたりで丁度良いタイミング)、1人は連続点滴が必要となることもあります。また20人に1人ぐらいですが、入院になるケースもあります。特に扁桃周囲膿瘍や咽後膿瘍に至った場合、耳鼻科の先生に処置をお願いしなければならないケースもあります(処置が遅れると膿瘍から膿が頸から下へ流れると縦隔炎や膿胸を起こし、ICUで治療したとしても命にかかわる状態に落ち込むこともあります)
- 中学高校生の初回または久しぶりの扁桃炎の場合、EBウイルスによる初感染を疑い確定する場合があります(その場合には採血で評価しますが、腹部超音波による脾臓腫大も確認します)。
- 40代から50代の扁桃炎も中にサイトメガロウイルス感染の場合もあり、採血によって確認します。