01-05;その他感染 ワクチン一般
破傷風トキソイド
- 全国では年間100人程度が発症。発症すれば死亡率は50%近く。
- 1968年以前に生まれた日本人はDP2種混合ワクチンで接種されていて、破傷風に対する免疫はない(昭和44年4月からDPT3種混合で接種されている)。
- 毎年70〜100名程度届け出。潜伏は4〜50日で短いほど予後が悪い。
DPTワクチン(今はポリオを含め4種混合ワクチン)
- ジフテリアは東欧、ロシアに流行あり。
- 1968年からDTwPワクチンの定期予防接種が開始。1975年副反応の問題から一時中止。1981年秋からDTaPが導入。
麻疹ワクチン
- 自然感染では1000〜2000例に1例で脳炎を合併。また麻疹の持続感染である亜急性硬化性全脳炎(SSPE)が約10万に1例以下で発症。年間数十例の死亡が報告。
- 卵白RASTスコアが6あれば皮内反応をすることが勧められる。
風疹ワクチン
- 風疹感染の合併症として、関節炎の頻度が高く、血小板減少性紫斑病(1/3000)、脳炎(1/5000)が希に起こる。
- 妊娠5カ月までに妊婦が風疹に罹患すると、白内障、先天性心臓病、難聴を3主徴とする先天性風疹症候群(CRS)児が生まれる。
- 87年10月2日〜90年4月1日生まれは、男女とも幼児期の1回接種のみだが、接種率が高くない。
- 79年4月2日〜87年10月1日生まれは女性患者は少ない。集団接種から個別接種に変わった時代。
- 62年4月2日〜79年4月1日生まれは、女子のみ学校での集団接種
ポリオワクチン
- 経口ポリオ生ワクチンは有効であるが、ワクチン関連ポリオ麻痺(VAPP)が懸念されている。乳幼児では筋肉注射など外傷でprovocation myelitisの報告もあり、骨格筋の損傷は逆行性軸索輸送を促す可能性も示唆され、ポリオ後の怪我には注意かもしれない。(3)(4)
- アメリカでは2000年にOPVからIPVへ完全移行し、VAPPの報告はない。
- 一般にワクチン接種後のトラブルに、浅く打つと皮下の反応が強いことがとりあげられるが、深くうつ方が問題を起こす可能性があると思われる(私見)
- 日本ではポリオは1980年から発症者はゼロ。ワクチンからの発症は400〜600万人に1人。2〜3人に一人ぐらいの割合と。
- 日本では2012年9月IPVに変更された。
- 西太平洋地域のポリオ患者は97年のカンボジアでの患者が最後となり、2000年にポリオ患者ゼロが報告された。インドでは2011年1月以来、ポリオ患者が報告されていない。
日本脳炎ワクチン
- 日本脳炎は7〜10日の潜伏期間の後、急激に発症し2〜4日でピークを迎える。致死率は約30%で生存しても神経学的後遺症の残る(30%程度)例が多い。
- 2008〜2009年に国内で56例の日本脳炎が報告されており、うち42例は中国四国、九州で発生した。しかし近畿でも滋賀県で日本脳炎ウイルスに感染した豚が確認(日本内科学会雑誌Vol100,No8,2256-2258は大阪の症例;滋賀県にハイキングの後)。平均的な年間のわが国の患者数は3〜4名。
- 中国では数万人、ベトナム、インド、タイ、ネパールでは数千人、スリランカでは数百人が年間発症。他に韓国、オーストラリア(ヨーク半島)、パブアニューギニアでも発症少数。バリ島も。アジアでは毎年3〜5万人が罹患し、1万人以上が死亡する。
- 以前、国内で年間2000人が発症。1954年から予防接種が実施。今も東北や北海道を除いて大多数の県で50%以上の豚が日本脳炎の感染を受けている。
子宮頸がんワクチン
- 性経験のある女性の約80%はHPVの感染を経験すると報告がある(1)
- HPV感染の90%は2年以内に消失する。
- 現在のワクチンはHPV16,18型の予防ワクチンであるが、31,45型にも交差免疫がある。これらの型からの子宮頸部前がん病変をほぼ100%予防できる(2)
- 免疫応答は小児の方が良好で、成人よりも高い抗体価が得られる。
- 筋肉注射;抗原がリンパ流や血流を介して局所のリンパ節に到達しやすい。またアジュバントを含むワクチンでは皮下接種では硬結、皮膚変色、炎症を生じやすい。
- すべての子宮頸がんワクチンのうち約70%は、高リスク型HPVとされる16,18型の感染が原因で、低リスク型の4型や6型は性器疣贅などの低リスク病変を惹起するにとどまる。
- HPV16型、18型に感染しても感染が持続するのは20%にとどまり、異形成に進展するのは5〜10%、15年以内にがんを生じるのは1%である。(感染のうち1000分の1ががんに進行する)
- 20〜25歳の集団でHPV16,18型のいずれかに感染している人の割合は約10%。つまりこの年代にワクチンを接種しても約9割に小学生中学生に接種した場合と同様の効果が期待できる。
- 55歳までは抗体価の上昇や安全性のデータが出ている。
- HPV感染から子宮頸がんに至るには10年以上の年月が必要となることを考えると30歳以降は子宮がん検診が重要となる。
- 年間の子宮頸がん患者は1万6000人、死亡する人は2400人(2008年)。罹患の年代ピークは20歳代後半から30歳代で、死亡のピークは40〜50歳代。
- HPVは種類が多く、うち30〜40種類が性的接触で感染します。
- 抗体価は6.4年までは確実に残り、1度の接種で20年間は効果が持続すると推定されている。
- 高危険HPV感染による子宮頸癌発生の相対危険率(オッズ比)は250〜500倍であり、喫煙による肺がん発生の約10倍、C,B型肝炎ウイルス感染による肝がん発生の20〜50倍に比べて、非常に高い。
- HPVは子宮頸癌だけでなく、肛門癌や陰茎癌、中咽頭および口腔がんにも関与している。
- 予防効果;34歳までに10万人あたり約50人で浸潤癌を、約30人で上皮内癌を予防。
BCG
- 正常児では直後に弱い反応があるが、10日目から2週間より局所反応が増大し30日目ころが最も強くなる。
- 接種後10日ころまでに強い局所反応(強い発赤、腫脹、化膿)がみられた場合にはコッホ現象を疑い、なるべく早期にツベルクリン反応を行うべきである。
- 国内の活動性結核の患者数は年間45000人程度。15歳以下は200人ほど。乳幼児では結核性髄膜炎や粟粒結核で致死率も高い(BCGではその80〜70%を予防)。
- 従来の乳幼児のツ反では発症者200人に対し、120万人にツ反を行い判明は13人程度。また小中学生では再検査や予防投与を5万人に行っていた。実際の発症者は発熱、咳などの有症状で見つかるケースが9割であった。
- 生後3カ月以上に行うのは観察期間によって先天性の免疫不全症を除外するのが目的。
肺炎球菌ワクチン
23価ワクチン(PPV;pneumococclal capsular polysaccharide vaccine)
- 90種類以上の型の中で感染する機会の多い(約8割)23種類の莢膜ポリサッカライドが含まれる
- 1回の接種で5〜8年は効果が持続する。アメリカでは65歳未満に接種した場合は5年後の再接種が推奨されている。(多糖体ワクチンはT細胞非依存性で免疫記憶が誘導されない。B細胞に働きかけて抗体を産生する))。
- 老人性肺炎の80%に有効であると。成人の侵襲性肺炎球菌感染症の致命率は22%。肺炎球菌は市中肺炎の20〜40%を占める。
- 脾臓摘出されていると、数時間で致命的血流感染を起こしうる。脾臓摘出手術の前後2週間は注射は避ける。
- 2009年10月から再接種が認められている。
13価(以前は7価)ワクチン(PCV;pneumococcal conjugate vaccine)
- 肺炎球菌の莢膜多糖体はT細胞非依存性抗原で、B細胞を直接刺激しますが、乳児のB細胞は未熟で多糖体抗原に対する免疫応答が不十分なため、多糖体ワクチンは乳児に十分な免疫を付与することができない。他方、莢膜多糖体抗原をキャリア蛋白と結合させることにより、莢膜多糖体はT細胞依存性抗原に変化され、良好な免疫原性が得られるようになる。
- 7つの莢膜多糖体に対し、髄膜炎起因菌で70%台、侵襲性肺炎球菌感染症起因菌で70%台あるいは90%台、菌血症起因菌で70%台、中耳炎起因菌で60%台の血清型カバー率が報告されている。
- 13価ワクチンであれば、血清型の肺炎の84%、中耳炎の81%、髄膜炎の91%カバーできる。特に最近増加傾向である血清型19Aのカバーができる。
- 10価ワクチン(PCV10)には無莢膜型インフルエンザ菌ワクチンの蛋白も含まれており、急性中耳炎の予防が適応となる。
- 肺炎球菌髄膜炎の年齢分布;3ヶ月未満9.5%。3ヶ月〜2歳未満;72.6%。2歳〜4歳;17.9%。
- 発熱率が他のワクチンと比べ高い;約10%;但し単独接種も同時接種も同じ比率。
インフルエンザ菌ワクチン(ヒブワクチン)
- aからfまで6種の菌型があり、組織侵入性感染症のほとんどがb型菌によって起こる。
- Hibによる髄膜炎は年間600〜1000例。死亡率は約5%。約24%にてんかん、聴力障害などの後遺症が残る。
- 中耳炎はカプセルを持たない菌が主力であまり効果は期待できない(肺炎球菌ワクチンは予防効果がある)。
- インフルエンザ菌はグラム陰性桿菌であり、莢膜の抗原性の相違からa〜fの6種の莢膜株と莢膜抗原を有さない無莢膜株に分けられる。小児のインフルエンザ菌性中耳炎の起炎菌の多くは無莢膜株である。インフルエンザ菌の外膜蛋白の1つであるD蛋白のワクチンはじめ開発試験中である。
- 2008年12月から日本に導入。
- Hib髄膜炎のリスクは母胎内で受け継いだ移行抗体が低下する4ヵ月ごろから増大する。初回接種終了後も抗体価の上昇が十分ではないケースが4割ほどあり、1歳時点での追加接種が求められる。
- Hibのほうが肺炎球菌より3ヶ月ほど早くかかりやすいと。ワクチンとしてはHib優先でよいと考えられる。
インフルエンザワクチン
- 幼児での効果は20〜30%程度。
- 妊婦はインフルエンザにかかると重症化しやすい。特に第3期(28週〜)以降
- アメリカ産婦人科学会、小児科学会は妊娠週数に関係なくあるいは授乳の有無に関係なく妊婦へのインフルエンザワクチンの接種を推奨している。
- 妊娠中にインフルエンザワクチンを接種した妊婦から出生した児は1年間、非接種の妊婦から出生した児よりインフルエンザに罹患しないとの報告がある。
水痘ワクチン
- 母体が妊娠8〜20週目に感染すると、新生児の平均2%に皮膚の瘢痕、神経系や眼や骨格の異常を引き起こす。
- アメリカでは定期接種により子供の水痘を85%、中等度以上の水痘を97%予防している。また帯状疱疹に対しても60歳以上(現在は50歳以上?)に接種が2006年より開始されている。
- 日本では接種率は20〜30%と低調で、年間患者数は22〜28万。
- 水痘とMRワクチンは同時接種が安全とわかっている。
- 帯状疱疹予防目的;可能であり有用であるが制度上は適応外。被害時に保障されるか不明。(米国では日本より力価の低いワクチンで60歳以上で推奨されている)。
おたふくかぜワクチン
- 不顕性感染は約30〜40%。
- 難聴の発生頻度は0.2〜1%
- ムンプスワクチンによる抗体陽転率は93〜95%とされ維持率もよく接種後の罹患率は1.6%と低い。
A型肝炎ワクチン
- 1995年に導入。
- 非常に安全なワクチン。重篤な副反応例は報告されていない。
- 2回接種で十分な抗体上昇が得られる。
B型肝炎ワクチン
- 近年genotypeAが増加してきている(1/4程度)。genotypeB,Cは主に垂直感染により伝播してきたが、genotypeAの感染では1割前後に慢性感染が起こり、進行肝疾患の原因となる可能性が示唆されている。
- 世界で170カ国以上がワクチンを導入している。未導入は1割程度。
- 近年のワクチンは遺伝子組み換え型。筋肉内接種。
ロタウイルスワクチン
- 世界100数十カ国で使用。
- 5歳以下の小児では、毎年8万人近くがロタウイルス腸炎により入院し、約80万人が外来を受診する。
- 1999年アメリカでは腸重積報告が増え一旦中止(RotarixでなくRotashield)。
- 持続型の痙攣を起こす症例では後遺症を残す(38%)など予後不良。
チメロサールの話
- 防腐剤として不活化ワクチンに使用されてきた。
- アメリカでは多数のワクチンを6ヵ月までにうつので積算量が多くなり、勧告が出た。
- メチル水銀とエチル水銀(チメロサール)は異なる。自閉症についてもデンマークでチメロサールが使用されなくなった1992年以降自閉症児が増加しているため、その関連性は否定されている(5)。
- 潜在的な不安を理由に世界的に代替え品に切り替えられる方向にある。
ワクチンによるアレルギー
- ゼラチンが除去されて生ワクチン接種後のアレルギー反応は激減(途上国へのワクチン輸出が増えた時にゼラチン量が10倍になり、アナフィラキシーの報告が増えた。1996〜97年)。
- 不活化ワクチン接種後100万接種機会に0.49〜0.93の頻度で原因が確定しないアナフィラキシー反応が報告されている。
参照
(1)Castellsague X,et al ;Gynecol Oncol115;S15,2009
(2)Panvonen J et al;Lancet374,301,2009
(3)Strebel PM,et al ;N Engl J Med 332;500,1995
(4)Gromier M,et al;J Virol 72;5056,1998
(5)Madsen KM,et al;Pediatrisc,112,604-606,20023