04-01;乳がん 乳腺疾患
- 年間約4万人(3万数千人)がかかり(約20人に1人)、1万人以上が亡くなる(男性では100人近く)
- 発症ピークは50歳前後
- 罹患して死亡するのは1/4で、生存率は高い。男性の乳がん罹患(好発は60代後半)は女性の100分の1以下であるが生存率は低い。
- 毎年1000人ずつ増えている。
- 早期乳がんと診断されても3〜4割が局所進行性、転移性乳がんに進行し、転移性乳がんの5年生存は5人に1人程度。
- 妊娠期乳がんは比較的稀で、約3000妊婦に1名と。(妊娠中期以降であれば全身麻酔や化学療法も可能(先天性疾患や二次性徴に影響せず))
解剖
乳腺組織
- 腺葉が乳頭から15〜20個が放射状に並んでいる。腺葉は小葉から構成されている。
リンパ節
がん
- 約90%は乳管から発症(小葉から発生する小葉癌はまれ)
- 触知する乳がんは発症から7年ほど経過している。
- 上皮内癌は基底膜を穿破して間質に浸潤することはできず、乳管に沿って区域性に進展する。その後上皮内癌の一部から浸潤がんが発生し、間質へと浸潤、腫瘤を形成する。
- 突発的に浸潤癌として発症する場合もある。
- 乳がんは非浸潤癌、浸潤癌、Paget病に大別される
- 浸潤がんは浸潤性乳管癌(組織構築から、硬癌、充実腺管癌、乳頭腺管癌に分かれる)と特殊型に分けられる。
- 発生部位は外側上部(54.3%)>内側上部(21.3%)>外側下部(12.7%)>内側下部(6%)>乳輪部(2.8%)の順。
- 硬癌32.9%、乳頭腺管癌27.1%、充実腺管癌17.5%、非浸潤性乳管癌10.3%、特殊癌(粘液癌、髄癌、扁平上皮癌など)8.7%、Paget病0.4%、その他(非浸潤性小葉癌、肉腫、不明、混在など)3.1%。(2005年次症例)
乳頭腺管癌
- 乳管内に発達した癌を巻き込んだもの。腺管構造が主体。
- 乳管を形成する腺上皮が乳頭状増殖をしたもので、癌病巣のほとんどは乳管内に認められる。
充実腺管癌
- 癌細胞が密に増殖し、膨張性発育したもの
- 乳管腺上皮が充実性膨張性に発育したもの。
- 周囲の正常組織との境界が比較的明瞭であることが特徴の一つ。
硬癌
- 周囲組織に浸潤し、線維化を来して収縮。周囲は引き込まれ針状突起(スピキュラ)を形成。
- 辺縁は周りの組織を巻き込むので、触診では軟らかく感じる。(マシュマロのよう)
- 実質成分よりも間質の線維増成が強いのが組織学的特徴である。また管内進展よりも管外への間質浸潤が著明でもあり、そのため非常に硬い。
粘液癌
- 乳癌細胞が粘液分泌能を有しているもので、間質内に粘液貯留があり、その中に癌細胞が浮遊しているので割面の肉眼像はゼラチンのようである。後方エコーは増強するものが多いなど超音波画像は一定しないので、線維腺腫と鑑別が難しい場合もある。
浸潤性小葉癌
- 特殊型の一形 まれな乳がん(乳管上皮でなく小葉上皮を発生母地とする)
- 予後不良
ホルモン依存
- 乳がん患者さんの60〜70%はホルモン依存性の癌。
- アロマターゼ;末梢脂肪組織などに存在するエストロゲン合成酵素
パッジェット病
- 乳管口付近の乳管上皮から発生した癌が乳頭に達したため、乳頭にびらん、湿疹様変化などを起こす。
- 超音波;乳頭周囲の皮膚の肥厚があって、本来の乳房乳頭直下の超音波像の消失が唯一の所見。
炎症性乳がん
- 予後が厳しい。
- 乳腺炎の皮膚では浮腫は弱いが、炎症性乳がんでは真皮内のリンパ管に癌が促成を形成し、皮膚は肥厚する。
男性乳がん
- 乳腺組織がなく脂肪組織も薄いので、腫瘍径は小さくても皮膚や胸筋への浸潤がみられやすい。
- 乳頭直下に発生することが多い。
診断
- 日本の乳がん患者の約9割が、自分で異常に気付いて受診。
症状
- 単孔性に血性または漿液血性の分泌が認められた時は癌の可能性は25%。
自己検診 触診
- 1円玉(2cm;StageI)サイズ以下で見つけるのが目標
- しこりの検診;生理が終わって5日目前後(後なら1週間)がよい。(手でわさる限界は1cm以上)
- 毎月自己検診するのが望ましい。閉経後は日を決めてされるのがよい
- 上内側は皮膚が硬くやや見落としやすい。癌の発生が最も多いのは上外側(乳腺が最も多い場所;良性疾患もこの場所に多い)。
- 50歳以上で触知する腫瘤があり、疼痛がなければ、70%程の確率で癌である。
- 腋窩の触診は必ず座位で行う。
- 広い範囲にでこぼこして硬い感じがある場合は乳腺症の可能性が高い。
乳がん検診
- 平成19年の全国受診率19.4%。要精検率8.6%。乳がん発見率0.27%。(10人に1人要精密検査となり、その30人に1人で癌が発見);年間4万人発症の乳がんのうち検診による発見は5000人。8人の癌患者のうち7人は自分で発見して相談されているということ。
鑑別
- 女性のおよそ50%には乳腺にある程度の線維嚢胞性変化を示す組織学的所見が認められる。
- 乳腺症;広い範囲にでこぼこして硬い感じがある。硬さはイカの刺身程度。
- 線維腺腫;スーパーボール程度の硬さ
- 乳腺症は閉経後には消失し、線維化の強い乳腺症は残存することもある。嚢胞も閉経後に消失し、閉経後の嚢胞の場合には何らかの増殖性病変が内部にあることを疑ったほうがよい。
乳腺症
- 30〜50歳代の女性に多い。しこり、乳房痛、乳頭異常分泌
- 症状は月経周期と連動し、排卵後から次の月経までの時期に乳房が張ったり、しこりを感じる。
- 性ホルモンバランス系の乱れによって生じた乳腺組織の増殖・萎縮・化成といった病理学的変化が絡み合った複雑な変化に基づく。
- 嚢胞を伴いやすい。超音波上では「あばた」「豹紋状」と表現。
- DCISや腫瘤非形成性病変は鑑別が難しい。
乳腺線維腺腫
- 比較的若い女性に多く発症する乳腺の良性腫瘍。硬いしこり。触るとよく動く。
- しこりは円形で平らなおはじきのよう。周囲との境界ははっきりして押しても痛みはない。
- しこりが大きいと摘出手術をすることがある。
- 石灰化を伴いやすいが、大きな塊状であることが多く、乳がんの際にみられる微細な石灰化と区別できる。
乳腺葉状腫瘍
- 比較的若い女性に多く発症する乳腺の腫瘍。急速に大きくなるのが特徴。
- ほとんど良性だが、ときに悪性のことあり、腫瘍切除が原則。
乳管内乳頭腫(乳頭腫)
- 乳管内に発生する乳頭状の良性腫瘍で、乳頭異常分泌、しこりなどが見られる。
- 類縁疾患として乳管腺腫;40歳代以上の女性に見られ腫瘤で発見されることが多い。病理的にも乳がんと間違えやすい。
超音波
- マンモグラフィーでわかりにくいしこりを発見できる
- 石灰化はわかりにくい
マンモグラフィー
- MLO(mediolateral oblique);斜め45度に内側から両側の乳房を(あたかも自分で自分の乳房を)見下ろしている状態。
- CC(craniocaudal);乳房の真上から見下ろしている状態。
- 120〜140Nの圧迫が推奨されている。すなわち13kg(バケツ2杯分)の重さで乳房を圧迫することになる。ある程度の大きさの乳がんでは転移を促すことも否定できない。大学によっては2cm以上の腫瘤にはマンモグラフィーは施行しない。
- 日本では2004年に40歳以上の検診に導入。
- 非浸潤型の早期乳がんを診断するのに精査の契機となる。
- しこりのがんは見つけにくい
- 米国の報告;検診による利益が最も大きいのは60歳代。40代については定期的なマンモグラフイーは推奨せず、個々の女性の価値観を考慮すべきとしている。(米国予防サービスタスクフォース 2009.11.17 Annals of Internal Medicine)。アメリカでは40代でマンモグラフィーでの見逃しは30%程と報告されている。
- 40代では偽陽性も多い。例えば1000人の受診のうち、要精密検査とされたのが86.3人。実際にがんと診断されたのは2.8人。(50代で要精検61.3人中2.4人、70代で要精検48人中2.3人)(福井県済生会病院のデータ)
- ヨーロッパではマンモグラフィー導入は乳がん死亡率低下には寄与していないと報告されている。(死亡率の低下は治療の質向上と医療制度の改善によると)(2)
- マンモグラフィーでは1人の乳がん死亡を防ぐために、2000人の女性を10年間検診する必要がある。同時に、10人の健康な女性に対して不必要な治療(部分切除か全摘、多くは放射線治療、時に化学療法)を行うことになる。更に約200人の健康な女性に偽陽性による精神的負荷を負わせることになる;Cochraneレビューのサマリー
- 10年間毎年マンモグラフィーを受けていると61%で、実際にがんではないのに「がんの疑い」と診断された経験があった;米カリフォルニア大学報告(特に40代では高いと);前回フィルムと比べれば半減できる可能性。
- 石灰化の形態;良性(粗大ポップコーン状、円形など)、中間(不明瞭、粗大不均一)、悪性を疑う(微細多形、微細線状、分枝状)
- 石灰化の分布;びまん性、領域性、集簇性、線状、区域性に分類。後者になればなるほど悪性を疑う
- 石灰化の機序;良性では分泌物(母乳にはオステオポンチンが多く含まれる)が集積して石灰化。悪性では乳がんが急速な増殖で血行不全を来して壊死し、そこにカルシウムが沈着。
- 乳がん検出力の感度は80%程度。
- 50歳から検診を始めた場合の効果モデル;1000人を10年間にわたり検診すると、マンモグラフィーで半数以上の615人に異常値が通知される。がんの診断に至る症例は25人。このうち7人が上皮内癌で放置しておいても緩徐な進展。17人が検診を受けずともしこりに気づいて治療しても治癒するタイプ。25人の症例のうち3人が検診の効果で救命と考えられる。つまり1000人に10年検診して約600人の偽陽性を出し、3人を救命するのが効果と言える。
- 1976〜2008年の米国のデータ。10万人あたりの早期乳がん患者数は112人から234人へ増加し、早期発見の効果が表れている。しかし進行がん患者数は102人から94人とごく少数の減少。すると早期発見にかなりのoverdiagnosisがあり、早期発見が乳がんの延命につながっていない事実が見える。
- 毎年施行すると20%死亡率を低下との報告もある。
マンモトーム
- 1999年に導入。
- 標的石灰化に対し、外科切除では場所が不的確。針生検(18Gや16G)では診断可能な検体が採取できないなどの問題があった。
- 11G用いることが多い(他に8Gや14G)
病理
記載
核グレード
- 核異型スコア(1〜3点)と核分裂像スコア(1〜3点)の合計点により判定され、異型度の低い方から順にGrade1,2,3の3段階に分けられる。
EIC(extensive intraductal component)
- 1984年にSchnittらにより乳房温存手術後の温存乳房内再発のリスク因子として初めて報告。
- 主腫瘤の25%以上が乳管内癌巣によって占められている。主腫瘤辺縁から周囲に乳管内癌巣の拡がりが認められる。の2つの条件を満たす。(乳管内成分が優位かどうか)
HER2(human epidermal growth factor receptor type2)
- 細胞の増殖調節機能を担うたんぱく質。正常な細胞にもわずかに存在していますが、乳がん患者さんの20〜30%(5人に1人)では、癌細胞の表面に正常の1000〜10000倍の量のHER2が発現。
- 陰性の乳がんに比べて細胞の増殖能力が高いため、乳がん手術後の再発リスクが高い。
Ki67
- 陽性であれば乳がん細胞が活発に増殖していることを示す。抗がん剤の適応。
5型の分類
- ルミナール;ホルモン受容体陽性(70%近い)。AはKi-67陰性。BはKi-67陽性。
- トリプルネガティブはKi-67陽性。
- HER2型はルミナールHER2型かHER2型か。Ki67はともに陽性。
治療
手術
- 上皮内癌(乳管がんと小葉がん)、孤発性浸潤癌それぞれ再手術は1/3、1/5であり、上皮内がんの方が再手術率が高い。
センチネルリンパ節(最初の転移先);手術の1日前に注射
摘出
内視鏡治療
薬物療法
ホルモン療法
アロマターゼ阻害剤
トラスツズマブ
- 静注投与;初回投与時は90分かけて点滴静注。忍容性が確認されればその後は通常3週間ごとに通院して30分間の点滴静注を受ける。
治療後
- ほとんどの乳がん治療は長期的な心血管疾患のリスクを増加させるので注意。(抗ガン剤、放射線、運動不足、トラスツズマブ、アロマターゼ阻害剤)
リンパ浮腫
- 7〜8割は手術から2〜3年後。5年、10年たってから現れる場合もある。
- 進行して皮膚が硬くなると改善しにくくなる。
治療
- 弾性包帯や弾性着衣を着用した状態で運動やストレッチ
- 畳んだ座布団やバスタオルの上に腕を置いて、心臓より高くする。
リスクと予防
- 早い初経、出産数が少ない、授乳期間が短いはどれもリスクとして挙げられている。
- ブラジャーについては関連はないとされている(2014.9.5;cancer epidemial biomarkers prev)
- ビスホスホネートに関してはリスク低下する又はリスク低下しないとの報告の両方がある。
生活習慣
食事
- 大豆イソフラボンは予防に有効
- アルコール飲料でリスクが増加するのはほぼ確実
肥満(閉経後)
- エストロゲンが出やすい。BMIが2大きいとリスク比が1.03になる。
- 閉経前についてはデータ不足
遺伝歴(母親と姉妹)
- リスクとして最も大きい(2倍以上)。
- BRCA遺伝子の検査は限られた施設で受けることができる(京都では京大病院;自費)。
- 乳がんの遺伝性は5〜10%(年間4万人とすると2000人程度)
BRCA遺伝子
- BRCA1,2遺伝子の変異により生じる癌は、欧米では遺伝性乳がんの50〜60%と。
- 変異陽性者では卵巣がんの発症リスクも高い。
- 癌は30歳代など若年で発症しやすく、両側や同一乳房内で多発する傾向がある。卵巣癌を先に発症する場合もある。
- アメリカのNCCN(癌センターのネットワーク)は一般的な検診推奨年齢よりも早く25歳からマンモグラフィーとMRI併用検診を推奨。35〜40歳または出産後に両側卵巣卵管摘出術を行うことを推奨している。
- 75歳ぐらいまでに約80%、50〜60歳ぐらいまでに約40%が発症する。
- HBOC(遺伝性乳がん・卵巣がん症候群);BRCA1あるいはBRCA2遺伝子が関連する。50%の確率で次世代に継承。乳がんあるいは卵巣がんの家族歴があったり、家族歴がなくてもトリプルネガティブ乳がんでの日本人でのBRCA1/2遺伝子の変異検出率は30.7%と、HBOC変異保有率が高いユダヤ人を除いた米国での20.6%を上回る。
- HBOCと診断された場合、70歳までの乳がん発症リスクは87%、卵巣癌発症リスクは44%とされることから、乳がんはマンモグラフィとMRI、卵巣癌は経膣超音波検査と腫瘍マーカーCA125の測定による検診が若年から行われる。しかし若年のBRCA1/2遺伝子変異保有者では診断用放射線曝露により乳がん発症リスクが増加する可能性が示唆されている。
ホルモン補充療法(HRT)
- 5年未満のHRTでは乳がんリスクは高まらない。(1)
SERM
- 骨代謝においてはエストロゲン様作用(椎体骨折の予防、骨密度増加効果)。一方で乳がん発症率の低下、血清脂質の低下、性器出血を起こさない。
乳がん発症予防効果
- タモキシフェンで家族歴のあるハイリスク群では38〜48%(38;全体。48;エストロゲン陽性乳がん)低下。
- ラロキシフェンも同等の効果(タモキシフェンと異なり子宮体癌のリスクが上がらない)
- 喫煙していない、血圧上昇のない、浮腫を起こさない、一方で家族歴に乳がんがある方は服薬(一定期間)が勧められる。
放射線
- 胸部に放射線治療を受けた女性では乳がん発症のリスクが高くなる。
話題
triple negative cancer
- ER,PgR,HER2(human epidermal growth factor receptor2)がすべて陰性。したがってホルモン療法やトラスツズマブ療法が無効。
- 術後早期に血行性の遠隔再発を起こしやすく予後が不良。
参照
(1)Rossouw,J.E. et al.;JAMA 288;321.2002
(2)Philippe Autier. et al;BMJ 343 d4411.2011