10-8;更年期ピルHRT
エストロゲンの作用
肝臓
- LDL受容体上昇。LDLコレステロール低下。HDLコレステロール上昇
- エストロゲン低下で脂質異常症
血管血液
- 血管拡張作用。抗動脈硬化作用。凝固能促進
- エストロゲン低下で動脈硬化。虚血性心疾患
骨
- 骨量の維持。骨端軟骨板閉鎖(思春期)。コラーゲンの合成促進
- エストロゲン低下で骨粗鬆症
皮膚
- 皮脂腺の分泌抑制。コラーゲンの合成促進
- エストロゲン低下でにきび、しわ
更年期
- 閉経の前後約5年ずつ
- 閉経年齢は個人差があり、約1/2が45〜50歳、約1/4がそれぞれ45歳未満と50歳以上です。
- 卵胞は胎生期に最も多く以後減少し、出生時には約200万、思春期には約40万、40歳前後で約1万となる。50歳以降では卵胞を発見するのは困難となる。
症状
- 不正出血、ほてのぼせ、発汗、不眠、動悸、精神不安、疲れやすい、肩コリ頭痛
- ほてりや発汗は自律神経の乱れにより、一時的に血管が拡張することにより起きる。逆に自律神経の乱れで血液の循環が悪く手足が冷えるようになる人も少なくない。
- およそ6〜7割の人に見られる。治療が必要な人は2〜3割。
ホットフラッシュ
- 通常2〜4分持続するのぼせ、ほてりなどの症状をいい、突然発症し繰り返す。末梢血管が拡張して皮膚温が上昇しそれに伴い体温を低下させるので、逆に冷えの原因ともなる。またしばしば発汗や動悸、不安感などを伴い、夜間に起こると不眠の原因ともなる。
- 閉経女性の40〜80%に認められ、1〜数年持続するが、長期にわたり遷延することもある。
診断
- 簡易更年期指数の50点を超えると治療が必要な目安となる。
- 血中FSH値が30mIU/ml、LH値が15mIU/ml以上で、E2値が30pg/ml以下であるならば卵巣機能低下が始まっていると考えてよい。(月経のある女性の場合は、採血は月経開始後2〜3日たって評価する;エストロゲンの量が生理中は最も少ない)。
- 性腺刺激ホルモンが増えると、視床下部や下垂体は過重労働になるため、その近くにある自律神経の中枢が影響を受ける。
HRT
- 減少;冠動脈疾患、大腿骨頸部骨折、認知症
- 増加(5年以上続けた場合);乳がん、子宮体癌(プロゲストーゲン併用では受けていない人より減少)
HRTの利点
- 泌尿生殖器症状の改善、皮膚の活性化(皮下脂肪の沈着を促し、皮膚コラーゲン量を増加させる)
- 肌や爪の状態が良くなる。髪も黒くなり増えるため、見た目が若くなる。
- HRTにより心疾患が40〜50%減少したとの報告があるが、WHIの報告では心疾患は1.22と増加(WHI;Women's health Initiative;NIHが1991年から実施したランダム化比較試験。2002年報告)
- 認知症の予防;1996TangらはLancetにリスクが0.4に低下すると報告
- Gorskyらの10000人コホートの報告(1995);25年間エストロゲン使用で、冠動脈疾患が48%減少し、大腿骨頸部骨折が49%減少し、乳がん死亡は21%増加し、子宮体癌(エストロゲン単独)死亡が207%増加したと(併用療法ではリスクは0.83と低下)。
- 白内障、歯の喪失、大腸がん(0.63)、大腿骨頸部骨折(0.66)などを防ぐ効果もあると。
脳動脈瘤
- 損傷した血管の修復に需要な内皮細胞の分裂を促進することによって血管壁の構造維持を助けるのがエストロゲンである。女性は40歳を超えると脳動脈瘤を形成しやすいことが示されており50歳〜59歳で破裂する可能性が非常に高くなる。
- 脳動脈瘤を有する女性では、ピルまたはHRTの使用率が有意に低かった。(1)
認知症
- 閉経後早期にHRTを開始した場合、明らかにADの発症が減るが、高齢でHRTを開始してもAD発症は減るどころかむしろ増加する。
乳がんの発症率
- エストロゲンを5年以上使用するとわずかに上昇する(10年間1000人中8人が10〜11人に増える;1.24倍)。
- 長期のEPT(併用療法)は浸潤性乳がんリスクを増加させるが、死亡率には影響しない。
- ET(単独療法)は必ずしも乳がんを増加させるとは断定できない。
- HRTにおける乳がんリスクは、HRT中止により消失する。
- 5年未満の実施期間ではリスクの有意な上昇は見られなかった。
他のリスク
- 2年以上の服用で良性肝腫瘍が10万人中3.4人発症と(腫瘍破裂は出血につながります)
血栓症
- 血栓症のリスクは海外で3.25~4倍(本院ではむくみが出やすい方は服用しないほうがよいと勧めています)(10万人中もともと5人程度、海外ではBMIが大きい人が多く、年齢や体脂肪率の上昇に依存しリスクは増加する)(低用量ピルであればリスクは上昇しないと報告)
- HRTは虚血性脳卒中のリスクを増加させるが、出血性脳卒中のリスクは増加させない。
- HRTによる虚血性脳卒中リスクは、エストロゲンの量が多いほど増加する。
- 高血圧患者へのHRTは脳卒中を増加させる。
- 脳血管障害の二次予防にHRTを行うべきではない。
- 女性ホルモンを経口投与すると、消化管から吸収され、門脈を経て肝内に取り込まれる。肝内エストロゲンは肝組織を刺激して凝固系を活性化するため、静脈血栓症のリスクとなる。
- 経皮の17β-estradiol(E2)は初回肝通過効果がないことと、経口の結合型エストロゲン(CEE)と比べると肝刺激作用が弱いことから凝固系がほとんど変化せず、血栓リスクの上昇がない。
- 米国食品医薬品局の報告を見ると、VTEの発症頻度は経口避妊薬(OC)非使用者で年間1万人に1〜5人で、OC使用者で3〜9人まで上昇することが示されている。一方妊娠は5〜20人、産褥12週間は40〜65人であり、妊婦や褥婦と比べるとOCによるVTEリスクは比較的少ない。
- VTE発症は女性ホルモン投与を開始してから3ヶ月以内が最も効率と言われている。
冠動脈疾患
漢方
実証;がっちりした体格で声が大きく汗かきな人;桂枝茯苓丸(ぶくりょうがん)
虚証;か細い体格で色白、声が小さな人;当帰芍薬散
中間証;加味逍遥散(しょうようさん)
ピル
ホルモンついて
エストロゲン
- 生殖機能を維持するだけでなく、骨からカルシウムが溶け出すのを防ぎ、血管の弾力性を保って動脈硬化を防ぐ、血中コレステロール値を下げるなどの作用。
ピルの作用
- 排卵抑制 精子の侵入を妨げる(頸管粘液の粘度が上がる) 受精卵の着床をしにくくする の3つ
服用
- 月経開始後1週間以内にのみはじめるのが原則(1日目とか初めての日曜日からとか)
副作用
効果
- 子宮内膜癌に対しても長期予防効果があるが、乳がんと子宮頸がんを短期的に増加させる。
卵巣癌のリスク減少
- 服用期間が長いほど効果が高く、15年間の服用で卵巣癌発症リスクが半減した。(2)
- 若年女性の場合は健康リスクよりも卵巣癌発症抑制の効果は大きい。
LEP(低用量ピル)
- 月経困難症(生理痛)の軽減 過多月経の減少、月経血量の減少による貧血の改善、月経不順の改善、子宮内膜症の進行抑制と症状改善、良性乳房疾患の減少、子宮外妊娠の減少、良性卵巣腫瘍の減少、子宮体癌の予防、卵巣癌の予防、大腸がんの減少、骨粗鬆症の予防、尋常性ざ瘡(にきび)の改善、関節リウマチの減少
ヤーズ配合錠
- 新規の黄体ホルモンであるドロスピレノンを含み、従来のLEP製剤に比べて卵胞ホルモンの含有量が少ないので、むくみなどの副作用も少ないとされる。
月経困難症
- 2000年の厚生労働省の調査では月経痛を感じる女性は78.7%。26.8%は鎮痛薬を服用して日常生活を送っているが6.0%は鎮痛薬が効かず日常生活に支障を来していた。潜在患者数160万人、労働損失額は年間約3800億円。
- 痛みの原因はプロスタグランジン(PG)などの内因性生理活性物質とされている。PGは子宮収縮を促進して経血を体外に排出する機能を有するため、過剰合成により子宮の過収縮を招くと考えられている。ホルモン製剤は、排卵抑制作用と子宮内膜の増殖抑制作用によってプロスタグランジンの過剰産生を抑え、子宮運動に伴う月経痛を軽減する。
子宮内膜症
- 生殖年齢女性のおよそ10%に発生し、月経痛をはじめとする疼痛および不妊を主症状とする疾患である。
参照
(1)Michael Chen et al. Journal of NeruInterventional Surgery 2011;3:163-166
(2)Valerie Beral et al.Lancet 2008;371;303-314