13-05;湿疹皮膚炎
- 代表として接触皮膚炎(金属アレルギーなどいわゆる皮膚炎)、アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎
- 増悪と寛解を繰り返し、皮膚のかゆみと乾燥、炎症を特徴とする湿疹が特有の分布をしながら慢性に経過する皮膚疾患
- アトピー素因を背景に、さまざまな刺激により湿疹を繰り返す。引き金になるのはアレルギーだけでなくストレス、感染、発汗、乾燥などの非アレルギー的な要素も重要
- アトピー素因;1)気管支喘息、アレルギー性皮膚炎などの既往、家族歴。2)IgE抗体を産生しやすい体質。
- 角質層の脂質成分が正常者と異なり、皮膚の水分結合能力が弱く、表皮からの水分損失が多い。
- 悪化要因;食物アレルゲン、花粉やほこりなどの風媒アレルゲン、物理的刺激、微生物、ストレスなどが挙げられる。一般に小児の患者では食物アレルギーの割合が多く(特に2歳児まで)、成長にしたがって風媒アレルゲンの果たす割合が大きくなる(大人では喘息や鼻炎と比べ食事やダニ対策の意味は少ない)。
- 4〜5人に1人はアトピー性皮膚炎の体質を持っているので、「よくない特異体質」であるはずがない
- 遺伝形式を見ると気道アトピー(喘息、鼻炎)の体質とは異なる。
- アトピー;1933年アメリカの皮膚科医ザルツバーガーが湿疹の分類に用いた。ラテン語で「奇妙な」「とらえどころのない」「その他の」などの意味を持つ。遺伝的素因とアレルギーが関わっているが詳細のわからない湿疹をアトピー性皮膚炎と名付けた。
- 1980年代、ステロイド外用剤の副作用による医療訴訟をきっかけにマスコミでとりあげられ、1990年代に脱ステロイドなど科学的根拠のなり治療法が脚光をあび、アトピービジネスとしてステロイドの副作用が強調され、バッシングにあった。今もネットなどで情報が氾濫しており、正しい情報の取捨選択が重要である。
疫学
- 乳児の時に人口の20〜25%の割合で発症し、成長するにしたがい自然に治癒していき、成人になって症状が残るのは2%程度になる。
- 過去30年間にアトピー性皮膚炎の発症率は約4%から約12%に増加した。
- 50%以上は顔面から始まり、紅斑から年齢とともに乾燥傾向へ。
- アトピー性皮膚炎の患者の35〜50%は、喘息かアレルギー性鼻炎のどちらか一方または両方を持ち、約60%は血縁に1つ以上のアトピー性疾患の既往歴がある。
- 小児で本格的に湿疹が発現するのは生後2〜6ヵ月以降である。
- アトピー性皮膚炎の小児の約40%は、青年期になる前に自然寛解する。しかしそれ以外の患者は成人期までに一時的に症状が治まったように見えても、成人期に手の湿疹などで再発する。
- 都市部の小児の20%、成人の5%、郡部の小児の10%、成人の2%がアトピー性皮膚炎といわれる。
- アトピー性皮膚炎が増加しているのは、悪化因子が増えたことと不適切な治療が一時広がったことによる。
- アトピー性皮膚炎患者の半数はアレルギーマーチは示さない。言葉としては使わない方がよいかも。
症状
- 発疹はおよそ左右対称性に分布し、年齢によってその好発部位に特徴がある。
- 乳児期では通常、頭部顔面に初発する。生後1〜2ヶ月より口囲、頬部に赤みに強い丘疹や紅斑が出現し、滲出液を伴ったジクジクした発疹を形成する。細菌感染を伴うと滲出液はさらに増加する。次いで躯幹や四肢にも赤みのある強い紅斑が出現するようになる。前頸部のしわ、膝窩、肘窩、手首、足首などに好発する。1歳を過ぎると食物により悪化する患者の割合は非常に減少する。
- 幼少期では、発疹は全体に乾燥性となり、細かい鱗屑が認められ、鳥肌様に毛孔が目立つ。耳周囲にはしばしば紅斑や亀裂が認められる。体幹の皮膚が乾燥傾向を示し、四肢関節に苔癬化局面を作る。乳児型発症を含めて6〜7割が10歳前後で軽快治癒する。
- 思春期や成人期になると、発疹は再び上半身に強い傾向を示す。顔面〜前頸部〜上胸部には特に好発する。眼囲を掻破すると、眉毛の外側が脱毛する(ヘルトゲ徴候)。紅斑部位をこすると、跡が1時間以上白くなる(白色皮膚描記症)。手湿疹は他の部位が治癒しても長期に残存する場合が多い。
- 皮疹;特徴としては紅斑、漿液性丘疹等の急性病変と、苔癬化病変等の慢性病変が眼囲、頸部、四肢関節部、体幹等の好発部位に混在している点が挙げられる。(苔癬化;皮膚が厚くなってしわが目立つ症状)
- 就寝時に身体が温まると痒くなる。痒みの最大の原因は温熱と発汗
- 乳児アトピー性皮膚炎は自然に治癒する傾向が大きく、約半数は2〜4歳までに治る。残りの半数が治りきらず、幼小児アトピー性皮膚炎に移行する。
- 幼小児アトピー性皮膚炎も成長とともに治癒する傾向があり、約半数の患者では小学校卒業から中学卒業までに湿疹はほとんど消えます。しかし残りの半数が治りきらず、成人のアトピー性皮膚炎に移行する。
診断
- 1)掻痒 2)特徴的皮疹と分布(左右対称性と境界明瞭) 3)慢性反復性経過
- 平成4年に皮膚科学会から初の診断基準
- 鑑別;かぶれ、とびひ。乳児湿疹は数カ月で自然に軽快。最低2カ月以上観察しないとわからない。
- 小児科を受診するAD患者の50%強は生後6ヵ月までに、70%強は1歳までにADを発症する。AD乳児の90%程度に食物特異IgEが検出され、原因食物としての頻度は卵白が圧倒的に多く、牛乳、小麦、大豆、米が続く。食物特異IgEは生後3カ月頃から検出され始め、1〜2歳でピークとなり、3〜4歳で次第に低下し、多くは学童期に消失する。幼児期以降のAD患者の80%以上に検出されるダニ特異IgEは、乳児期前半には検出されず、乳児期後期から次第に陽性となる。
- 食物アレルギーは乳児AD患者の80%程度に関与していると考えられる。一方で3〜5歳になると食物特異IgE陽性者の30%以上が、もはやその食物を食べても何も症状を示さなくなる。学童期以降になると食物アレルギーの関与は10%以下である(幼児期にはダニアレルギーの関与が次第に増加する)。
治療
- 炎症とバリア障害の2つの素因がある。炎症を抑えるためにステロイドの外用、バリア機能を失って弱った皮膚のために皮膚を補強するスキンケア
- 悪化に1)誤ったスキンケア 2)非ステロイド外用薬による接触性皮膚炎 3)非科学的治療
- 裁判でも脱ステロイド療法で悪化した場合、医師が訴えられて敗訴している事例がある。
スキンケア
- 1)清潔を保つ 2)乾燥を防ぐ 3)物理・化学的刺激を避ける
- 清潔;朝夕の入浴や汗をかいたらシャワー
- アトピー性皮膚炎の患者の皮膚は、ほこり、汚れ、汗、ダニ抗原、細菌などの外的な刺激に弱い。まず刺激や脱脂の少ない石鹸を使って皮脂の中に紛れ込んだこれらの物質を洗い流す。石鹸は手で泡立てて身体に塗るようにし、後は温水でよく洗う。入浴後には皮膚が乾燥する前に保湿剤他を塗る。(低刺激の石鹸では洗浄力が弱いことがあり、普通の石鹸でよい)
- 石鹸を使わない場合は、入浴温度を低くして15〜20分入浴時間を長くするのも一手。
- 衣類は必ずしも木綿でなくてよいが、柔らかいものにする。木綿は冬場は冷たい水のため残留洗剤が問題となる(特に肩周りに現れる)。新しい素材のものがある(ベンセリック;旭化成)。添加物が少ない洗濯洗剤(アトピロジー;サンスター社)。すすぎをお湯で行うのも勧められる。
- 保湿剤を全身に塗るのは間違い;かえって皮膚のバリア機能低下やかぶれを招く。
- ワセリン(油性);べたつくので就寝中は熱がこもって痒みが増強することがある。
ステロイド
- 非ステロイド外用薬はアトピーの皮膚炎を抑えるほどの抗炎症作用がなく、かえって接触性皮膚炎を起こすことがある。
- 顔では1〜2週間を限度とする。
- 副作用;皮膚萎縮、毛細血管拡張症、(色素沈着は炎症後でありステロイドの副作用でないことが多い。掻破の方が問題)
- very strongクラスのステロイド外用薬でさえも、通常使用量(1日10g以下)では、副腎萎縮、成長障害、ムーンフェイス、感染症の増悪などは生じない。
- 前腕内側を吸収1とすると、頸部は6倍、頬は13倍、陰のうは42倍、足底は0.14倍。
- 湿潤が強くてびらん面を示す湿疹の場合は、ステロイド外用剤の単純塗布ではすぐはがれ落ちてしまいます。このような場合はステロイド外用薬をガーゼに薄く伸ばし、湿疹部位にかぶせて包帯などで固定します。数日の治療で良くなるので、その後は単純塗布にする。
- 副作用;1)多毛 2)皮膚萎縮 3)ステロイドざそう 4)ステロイド酒さ 5)顔面難治性紅斑 6)リバウンド(悪化因子が残っていてステロイドを中止した場合)
タクロリムス(プロトピック軟膏)
- 皮膚障害や中止時のリバウンドがない。一方で適応は3歳以上(子供用0.03%)。びらんや潰瘍には不適(薬成分の血中濃度が高くなり、腎障害などを起こす。先に皮膚の傷はあらかじめステロイド外用剤などで治癒をさせてから)。
- 他の軟膏に比べると顔の赤みを早くとるという特徴がある(薬剤の分子量が大きいため、皮膚の薄い顔面以外の体表からは吸収されにくい)。顔面に有効は7割。無効は約25%。
- 副作用;刺激感(刺激を軽減するためワセリンで薄めて使う医師もいる)。カポジ水痘様発疹症などの皮膚感染症。
- 長期使用の安全性が明らかでない。軽快後に中止すると再燃することがよくある。保湿剤との併用で1〜2週間に1回で塗り続けると症状をコントロールしやすいが。
抗ヒスタミン薬
- アトピー性皮膚炎の発症にはIV型アレルギーが主に関与し、I型アレルギーはあまり関与しない。したがってあまり効かない。少しかゆみを抑える程度。
抗アレルギー薬
悪化因子の除去
外的
- 1)皮膚の汚れ 2)外用剤などによるかぶれ 3)衣類の残留洗濯洗剤(冬場) ;ダニは問題ではない。
- ダニを減らすことで、一部の患者において喘息や鼻炎の予防につながるかもしれない。
- 1)皮膚に汗や汚れが付着し長時間経過すると、皮膚の刺激となり、皮疹を悪化させる。
- 紫外線;良い場合と悪い場合の両方がある。;日焼けは皮膚を乾燥させ、バリア機能を低下させる。
- 直接肌に触れる衣類は素材を選び、衣服の糊、蛍光染料、柔軟剤、洗剤などが皮疹の悪化原因にならないか注意。
- 日光浴は大気浴で皮膚を鍛え、ビタミンDができて皮脂の分泌をうながして皮膚表面のバリアをよく修復するし皮膚の角質を丈夫にする。また日光は皮膚でおこっている過剰な免疫アレルギーを抑える働きがある。
経口
- 1)食物(納豆、ヨーグルト、チョコレート、コーヒーなど) 2)薬剤(頻度は少ない)
- 悪化食物の停止は半年〜1年程度。
- ストレス;年長児では心理的ストレス増大による悪化はしばしば認められる。ストレスがあると掻く回数が増えて、皮疹を悪化させる。
その他
- 海水浴はアトピー性皮膚炎に良い。(刺激になる時はよくないが)。お風呂でも天然塩を入れる方法もあり、痒みが治まりやすい。
- 亀裂;ステロイドを薄く塗り、その上に保湿剤。指であればサランラップをかぶせて綿の手袋で固定。
- ダニ対策は重要ではない(一部の患者のみ)
- 昼と夜の逆転は良くない。
- クリーム;湿潤している湿疹には、軟膏よりもクリームが適している。また夏には軟膏を塗布すると皮膚がべとつくので、クリーム剤がよく使われる。
- テープ剤;手や足に亀裂が生じている場合。難治性の痒疹にもテープ剤の添付は有効。
- 茶ポリフェノールにはI型とIV型アレルギー反応を抑える力がある(緑茶、ウーロン茶、紅茶)。麦茶やこぶ茶はポリフェノールは含んでいない。
- ペットに関しては明確ではないが、乳児期早期からの飼育は将来の喘息やアトピー性皮膚炎のリスクを高めるという報告がある。
合併症
- 成人に白内障や網膜剥離がある。白内障は12%前後(重症では30%、中等症で4%、軽症では0)
さめはだ(魚鱗癬)
- 遺伝性の角化症。治療は単純な保湿剤で十分。アトピー性皮膚炎患者の約15%に魚鱗癬を合併する。魚鱗癬の乾燥肌にステロイドを塗ると、皮膚萎縮が起こりやすい。
- 魚鱗癬の乾燥皮膚にはかゆみはない。
網膜剥離
- 掻くなと言うとたたくことがあるので、叩かせてはダメ。